株式会社 片平新日本技研

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片平の仕事Katahira’s Works

交通挙動分析による交通事故対策の立案について道路交通部 高野 仁

なぜ事故が多発するのか、要因を探る

私は、クライアントの依頼を受け、事故多発箇所の将来的な事故削減対策の立案につながる交通安全対策の検討を担当しました。平成23、24年の事故調書から事故多発地帯をピックアップして調査を実施したのですが、その中で今回のトンネル調査はとくに興味深いものでした。
平成19〜23年の4年間に起きた事故を調べると、1.2キロポストで発生したものがもっとも多く、50件に上ります。時系列で見ても件数は減少していません。トンネルは0.9キロポスト周辺から急カーブが続き、1.2キロポスト周辺では明かり部が連続します。事故発生状況を分析すると棒グラフのような特徴が現れますが、主に「速度の超過」「ドライバーの眼の明暗順応が遅れること」「明かり部における路面の湿潤」の3点が要因となっているといえるでしょう。

H19~H23年の事故発生状況

2つの調査で、事故要因の裏付けに挑む

通常、交通安全対策は事故調書の情報をもとに立案するのですが、今回は調書をもとに分析した要因について、さらに裏付けを明確したいと考え、実際に調査することにしました。調書から予測すると、事故多発エリアに進入し、Sカーブを視認したときにブレーキが遅れたり、ハンドル操作が不適当となって、カーブで追突や接触事故を起こしているのではと思われます。そこで、調査とデータ分析のポイントとしたのは、トンネル区間と函渠区間の通過時における走行速度、そして車両の挙動です。

調査方法の1つは、ビデオによる定点観測。上流側と下流側の2地点にビデオカメラを設置し、走行速度や車両挙動から交通特性を把握します。カメラを設置するために早朝や深夜に高速道路の標識をかなりの高さまでよじ登りましたが、正直なところ怖かったです(笑)。

も う1つはフローティング調査で、プローブ機器とビデオカメラを搭載した車両で、対象箇所を含むルートを走行するものです。プローブ機器とは走行履歴や挙動 履歴のデータを得るセンサーで、走行速度、前後加速度、横加速度などを把握し、一方のビデオカメラでは走行時におけるドライバーの視野などをチェックしま す。こちらの調査では交通特性を連続的、定量的に把握することができるのです。

観測中に事故発生! 重要なデータを入手

1)走行速度結果
(ビデオによる定点観測)

ビデオの定点観測では、調査時に偶然事故が発生したため、通常時と事故直前のデータを比較しながら車両挙動を分析することができました。調査の結果、まとめたデータは走行速度のほか、平均車頭時間、安全余裕度の3種類です。

走行速度は、下流側の地点2において事故発生時の方が通常より速いとわかりました。事故直前は半数以上の車両が地点2で速度を上げ、つまり、函渠の手前で減 速しておらず、危険な交通状況だったということです。また、事故危険箇所において、通常時でも大部分の車両が制限速度を超過して走っているという点は、予想外でした。

箇所 時点 平均速度(km/h) 標準偏差(km/h) サンプル
地点1 事故直前 69.0 7.6 196
通常時 68.1 8.0 196
地点2 事故直前 71.0 9.1 213
通常時 66.8 7.7 213

2)平均車頭時間(ビデオによる定点観測)

平均車頭時間とは、ある地点を通過したときの前の車と自分の車の時間差です。こちらは通常時と事故直前に大きな差は見られず、平均値はいずれも2.0秒ほどでした。

箇所 時点 平均車頭速度(s) 標準偏差(s) サンプル
地点1 事故直前 2.1 1.1 156
通常時 2.1 1.1 173
地点2 事故直前 2.0 1.1 153
通常時 2.1 1.1 172

3)安全余裕度(ビデオによる定点観測)

もうひとつの安全余裕度というデータは、車両の危険挙動をわかりやすく評価するためにまとめたもので、速度と車頭時間を組み合わせた指標を用いています。あまりなじみのない指標のため、クライアントへの説明に苦慮しましたが、追越車線、走行車線ともに車種間の速度については比較的安全という結果が出ました。通常時、事故直前ともに同様で、地点2においては前後車両の速度差に大きな違いは見られません。

  走行車線 追越車線
通常時
事故直前

4)旅行速度・横加速度(フローティング調査)

一方、フローティング調査の結果から、まず走行速度は40~70km/hでトンネルに入り、ほぼ一定の速度でトンネルを通過し、函渠内で徐々にスピード ダウンします。横加速度については、トンネル坑口で右向きのGが、函渠の付近では左向きのGが生じています。つまり、トンネル内で速度を保ったまま走行 し、速度超過によってトンネル坑口や函渠でスリップが生じる可能性があるといえるでしょう。

5)車線別の視認性(フローティング調査)

また、走行車線を走っている場合は函渠出口の交通状況を目で確認することが可能ですが、追越車線を走っているとまったく確認できません。したがって、追越車線では減速行動が遅れ、事故発生につながっていると推測できます。

事故調書に加え、今回の2つの調査によって考えられるのは、函渠部出口付近を始めとした速度超過、前方の事象の判断遅れによってハンドル操作の不適当が生じて、追突・接触事故が多発しているということでした。

速度の抑止と視認性の向上を目指して

これらの調査結果を踏まえた対策工事として、まず速度の抑制のために「速度注意」と記した路面標示を赤く目立つ表示に改良すること、さらに導流レーンマークも図のように車線が狭く見えるように改良するという案を挙げました。
また、ドライバーの視認性の向上に向けて、トンネル内にLEDプロビーム照明を導入し、反射板を設置することも有効だと考えています。

1)対策:速度抑制

2)視認性向上

3)調査結果より考えられる対策案

そのほか、高機能舗装の導入やトンネル内装板の改良といった対策案を組み合わせ、今後はドライビングシミュレーターを使って効果の検証を行っていく予定です。

まとめ

今回の業務は、これまであまり取り組んだことのない分野の業務で、慣れるまでは苦労もありました。しかし、過去の事故対策の報告書などを参考に疑問点を解消すると同時に、経験豊富な上司からアドバイスをもらい、結果、学ぶところが多かったことは幸いでした。
人命にも関わる交通事故対策は、とてもやりがいのある仕事です。知らなかった技術に多く触れることができて、自分にとっても実りある業務でした。その一方で、いくら道路上の問題を解消しても、自信による運転ミスやよそ見、わき見といったケアレスミスなど、ヒューマンエラーによる事故に対しては、ハードの対策では限界があります。これからはいかに安全運動へと導くか、ドライバーの意識の変容が必要とも感じています。

筆者プロフィール

本社道路交通部 高野 仁(2004年入社)

学生時代は、高速道路における視程不良時での注視特性について研究

2004年 交通部 圏央道の交通量推計などを担当
2006年 大阪支店交通部 奈良市中心部の整備計画検討などを担当
2008年 (財)高速道路技術センター・(株)高速道路総合技術研究所に出向

高速道路の交通動向分析・交通量推計を担当
2013年 道路交通部 交通挙動分析による交通事故対策の立案などを担当