株式会社 片平新日本技研

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片平の仕事Katahira’s Works

博多バイパスL型擁壁及び杭基礎設計

本業務の背景について

博多バイパスは福岡県博多市の中央部、JR博多駅から北東6㎞ほどに位置します。終点側には福岡空港が位置しており、そのアクセス性の向上、体系的な交通サービスの提供のためにバイパス整備が期待されています。延長計画は7.7kmで、終点側の博多側から整備が進められてきています。今回の業務は、整備が残る松崎地区から下原地区間の3.2㎞の区間で、道路規格は、第4種第1級、設計速度60㎞/hです。

具体的な業務内容は以下のとおりです。

  • 道路詳細設計 施工計画及び発注資料作成
  • 歩道詳細設計
  • 一般構造物詳細設計
  • 平面交差点詳細設計
  • 協議資料作成

当該設計区間は、過年度に実施設計および詳細設計が実施されています。 用地取得状況、関係機関との協議、予算等の関係から部分的に施工されています。 これらの成果や工事の進捗状況などと整合を図りながら問題点等を解決し、業務を行いました。

写真(①〜④)は昨年の9月時点の施工状況です。残りの3.2㎞間で、青で塗った部分が中間層まで出来上がっている区間です。

この他に、補強土壁が途中の段まで施工済みであったり、ある区間のみ少しだけ切土していたりと、細かな点を把握するのに苦労しました。

今回の業務の中では、平成25年度までの施工状況を踏まえ、残りを5工区に分割して残工事の工程計画と土配計画を行い、今後の工事発注の基礎資料となるものを作成しました。

香椎駅 東4号公園機能復旧のための擁壁設計

この擁壁は西鉄 香椎駅の東側に位置します。周囲は非常に住宅が密集した地域です。

公園の種別は幼児公園で、開園年度は1996年、開園から18年を経過しており、維持管理は福岡市が行っています。

上の図が公園の平面図です。公園の平面形状は赤の破線で、このようにL型を呈しています。下側にバイパスが建設されます。

下の図が公園の中央部分の横断図(A断面)で、公園の敷地高さとバイパス本線との高低差が約7.0mあります。

このようにバイパスの歩道に接するようなかたちで境界部に壁高7.0mと5.0mの現場打ちのL型擁壁、壁高3.0mの重力式擁壁が存在します。

これらの既設擁壁の基礎地盤は深さ11mにわたってN値3~9の粘性土が堆積し、その下に泥質片岩が分布しています。従って、擁壁はこの岩盤を支持層とした杭基礎形式(支持杭)となっています。

現地調査

既設構造物の適用性を把握するため現地調査を行いました。

擁壁の外観を近接目視により調査しましたが、クラック、表面の剥離などの大きな損傷は見られませんでした。よって、社会資本ストック、構造物としての健全度は高いと評価でき、有効活用することは十分可能であると判断しました。

既設計の問題点

  1. 既設擁壁及び杭基礎は全撤去
  2. 構造物掘削法肩と隣接する家屋との離隔が小さい
  3. 大規模な地山補強土工法
  4. 大規模な地盤改良

平成21年度の詳細設計において、当該箇所の機能復旧のための擁壁設計が行われました。この時の設計では、既設擁壁を全撤去(杭基礎も全撤去)して、あらたに補強土壁を構築して公園の機能復旧をするという計画でした。

しかし、実際に着手してみると、施工面で、安全性が低いことから、当方で再検討作業に着手しました。既設計の問題点としては以下の4点が挙げられます。

  1. 既設構造物及び杭基礎は全撤去する計画であるが、存置する部分と新設する部分との取り合い等や施工時の安全性が考慮されていないこと
  2. 掘削法面の法肩と隣接する家屋との離隔が小さいこと
  3. 掘削法面に仮設工として地山補強土工法を併用しているが、部分的に家屋へ近接するため、影響が懸念されること
  4. 既設の杭基礎を全撤去して地盤改良を施すため、大規模なプラント等を要すること

検討箇所

構造/断面図/概要 施行性 安全性 適用基準
実績
経済性 総合
評価

第1案(歩道縦断変更無し,既設計):補強土壁工法〔帯鋼補強土壁工〕+地山補強土工法

既設擁壁(重力式・L型)を撤去し、新たに補強土壁+地盤改良により、公園を造成する。床掘り時の地山の安定対策として、地山補強土工法を併用する。

× ×

第2案(歩道縦断変更無し):自立式土留壁工法〔高強度PCパイル工法〕

既設擁壁(L型+杭基礎)を存置し、既設擁壁前面に沿って、高強度プレストレストコンクリートパイルを連続して設置する。

第3案(歩道縦断を2.6m上げる設計):既設L型擁壁(H=5.0m)延伸+自立式土留壁工法〔高強度PCパイル工法〕

既設重力式擁壁を撤去し、既設L型擁壁(H=5.0m)を延伸する。歩道縦断を上げて、歩車道境界に沿って、高強度プレストレストコンクリートパイルを連続して設置する。

第4案(歩道縦断を0.8m上げる設計):既設L型擁壁(H=7.0m)延伸+小型重力式擁壁工

既設重力式擁壁、L型擁壁(H=5.0m)を撤去し、既設L型擁壁(H=7.0m)を延伸する。歩道縦断を上げて、歩車道境界に沿って、小型重力式擁壁を設置する。

第5案(本線縦断を0.8m上げる設計):既設L型擁壁(H=7.0m)延伸

既設重力式擁壁を撤去し、既設L型擁壁(H=7.0m)を延伸する。本線縦断を上げて、既設擁壁(H=7.0m)の根入れを確保する。

× × ×

既設計の問題点

これらの問題点を踏まえて、本線の道路構造を含めた擁壁形式選定、検討を行いました(上記表)。

今回の検討のポイントは、

「既設擁壁(ストック)をいかにして活用するかという点」が着目点です。

昨今の社会資本インフラの老朽化対策や長寿命化が今日的な問題でもありますが、今回の検討においても新旧の構造物を上手に組み合わせて既設ストックを有効活用するということが重要なポイントでした。

第一案が、既設計の補強土壁プラス地盤改良の案です。

次の四つはいずれも既設構造物を有効活用する案ですが、第一案として既設L型擁壁を存置し、擁壁前面に沿って高強度PCパイルを連続して設置する案です。

第二案は、既設の端部の重力式擁壁を撤去して既設L型擁壁を存置し、本線縦断は変更せず、歩道縦断を上げて歩車道境界に高強度PCパイルを連続して設置する案です。

第三案は、既設重力式擁壁、5.0mのL型擁壁を撤去して第2案同様、歩道縦断のみを上げて、壁高7.0mのL型擁壁を延伸し歩車道境界に沿って小型重力式擁壁を設置する案です。(本線と歩道の縦断を分離させて、本線の道路計画高は変更しない)

第四案は、既設重力式擁壁と5.0mのL型擁壁を撤去し、第3案と同様に7.0mのL型擁壁を延伸し、本線縦断を上げるという案です。(この案は施工済みの舗装や水路等をやりかえる必要が生じる)

これらの検討から、隣接する家屋への安全性、経済性、施工性を総合的に判断し、第三案の歩道縦断のみを上げて壁高7.0mのL型擁壁を延伸する案を提案し、採用となりました。

杭種の検討

Case (1)PHC杭
(φ600-C種-10.0m 6×3列配置,
1ブロックあたり18本)
(2)場所打ち杭
(φ1000-10.0m 4×2列配置,
1ブロックあたり8本)
概要図
構造性
  • 常時の引抜力にて本数が決定されており,バランスにやや欠ける(L型の特質)。
  • 変位については余裕がある。
  • 土圧力が大きく応力度が厳しくなるため,C種を用いる必要がある。
  • 安定度は押込力にて決定されており,安定感のある設計内容となる。
  • 変位については十分な余裕がある。
  • 応力度についてはφ1000とすることで鉄筋・コンクリート共にバランスよく決定される。
施行性
(近接あり)
  • 既設杭と同じ杭種であり,施工信頼性は高い。
  • 先行して既設杭位置を掘り出して把握するため,干渉は確実に避けられる。
  • ベースマシンを用いない工法(中堀orプレボーリング)であるため,既設擁壁との近接の影響を受けにくい。また,施工は単重機にて可能である。
  • 既設杭の緒元が明らかであって,土質情報の信頼性が高いため,施工信頼性は高い。
  • 先行して既設杭位置を掘り出して把握するため,干渉は確実に避けられる。
  • ベースマシンを用いるため,既設擁壁との離隔を確保する必要がある。また,複数の重機を使用するため,ヤード面で不利となる。
工期
  • 杭材の調達は比較的容易である(発注から現着まで3ヶ月程度)。
  • 現場工期が短い(5日程度)。
  • 一般土木資材であり,調達性は良い(鉄筋は太径を使用しないため1ヶ月程度でロール可能)。
  • 現場工期はCase1に比べやや長いが,10日程度。
経済性    
総合評価 施工性,工期,経済性においてCase2より優れる。 構造性において優位性があるものの,他の要素ではメリットが生じない。

既設L型擁壁を延伸することから、杭種の検討を行いました。

既設杭種である「PHC杭」と「場所打ち杭」を比較した結果、構造性を除き、施工性、工期、経済性で優位である「PHC杭」を採用しました。

特筆すべき点は、既設のPHC杭は直径400mmですが、LEVEL1耐震設計でわずかにNGとなり直径600mmを採用することとなりました。

また撤去する5mのL型擁壁の既設杭は存置することから杭の配置は既設杭と干渉しないように位置を調整しています。

杭の施工法としては、施工時の騒音、振動に配慮し「中堀工法」としました。

技術的に工夫した点

今回、技術的に工夫したのは、擁壁端部の処理をウィング形式にした点です。

通常であれば、擁壁を90°相応に折って、隅角部を設けた形にして壁を設けますが、施工性や民家への影響を最小限にするため、橋台のウィング形式を上図のように応用して工夫を図っています。

この構造を提案しコスト縮減を図ったことで、発注者より高い評価を得られました。

今後の課題

既設構造物の健全度を評価する技術力の研鑽

今回有効活用した既設のL型擁壁は1996年に施工され、建設後18年が経過しています。
現地調査を行った際に、外観を近接目視により確認しましたが、有害な劣化やクラック等は特に見受けられませんでした。
今後は、単にスクラップアンドビルドするのではなく、既設構造物を有効活用するといった社会的ニーズも増えてくると考えられます。故に既設構造物の劣化状態や健全度を評価する技術力を研鑽していくことが重要であると考えます。

既設擁壁の長寿命化(建設後18年が経過)

もうひとつは、近年の大規模地震災害等を受け、擁壁設計においても設計基準が大幅に改訂され、耐震要求性能がより高度化しています。本設計では最新基準である「道路土工擁壁工指針平成24年7月版」に基づき「LEVEL1耐震設計」を適用しています。

結果、縦壁、底板の部材厚、鉄筋かぶり等に新旧で差異が生じています。

これは経過年数もさることながら、新旧構造物で材齢や構造的な違いにより耐久性が異なっています。今後、既設擁壁には、なんらかの劣化防止対策を施す等、長寿命化を図る必要があると考えます。

筆者プロフィール

大阪支店技術部 松浦順一(2013年入社)
学生時代は兵庫県南部地震で被災した高架橋の破壊挙動を解析し、その解析結果を可視化する研究を行った。
高速道路、国道、主要地方道等の道路設計を担当。