図A:路線概要図
片平の仕事Katahira’s Works
印南川下流方面から望む
2010 年6 月10 日、新大阪駅に取材班3 名が集結した。現在は皆違う部署で活躍するこの3 名が、約12 年前、共に設計に携わった橋たちが今回の取材対象である。
阪和自動車道全体のロケーションと取材対象を簡単に紹介する【図A 参照】。
阪和自動車道は紀伊半島の西海岸に沿って南北に結ぶ、法定路線名「近畿自動車道 松原那智勝浦線」。湯浅御坊道路を挟み北側( 岸和田和泉IC~有田IC 間) と南側( 御坊IC ~南紀田辺IC 間)に分かれるが、今回は南側区間に架かる本線橋梁(3 橋) と工事用道路に用いた町道橋(1橋) を訪ねることとした。
図A:路線概要図
この橋梁は、鋼4 径間連続非合成少数鈑桁を主構造とし、鉄道および、二級河川と交差する橋である。IC の変速車線が含まれるため幅員変化もある。また川に沿って開けた見通しの良い段丘地形に架かるため視点場が多く、美観・景観性への配慮も求められていた。
設計では、起点側と終点側で約1.5 倍の幅員差がある本橋を、どのような主桁配置で対応するか( バチ桁配置or 枝桁処理)、主桁本数をどうするか、幅員変化に対応可能な床版形式や橋脚の意匠、鉄道直上径間の架設方法など、多数の課題を検討・整理した。
桁構造・桁配置は床版張出し量をほぼ一定とした外桁2 本と、その主桁間隔が7m 程度となるP2 橋脚上( 橋梁のほぼ中央) で高剛度横桁を介して2 主桁から3 主桁に切り替える構造は、構造的に単純で違和感も少なく、見栄えも良かった【写真1 参照】。
写真1
下部工は耐震設計から柱断面の拡大が必要だったこともあり、思い切って梁のない幅広な橋脚柱とし、デザインスリットを設けて見た目の圧迫感を低減するという方針で設計したことにより、幅の異なる3 基の橋脚に統一感とスレンダー感を演出していた【写真2 参照】。
P3 橋脚(鉄道近接) や鉄道直上部の上部工に大きな設計変更点は見受けられず、基本設計が踏襲されて詳細設計・施工が進んだことが伺えた。川の河道も自然豊かな姿に修復され、急斜面上の橋台にも目立った変形や損傷は見られず、全体として現地に馴染んだ橋になっていた。
写真2:統一されたデザインスリット
この橋梁は、IC 付近に架かるPRC ポータルラーメン橋( 中空床版) である。主な特徴は、
などである。
設計では、基礎工形式( 直接基礎or 深礎杭の判断)、バチ形対応( ボイド配置と張出し量の決定) などで苦労したが、コスト分析と基礎バネの差による竪壁厚や配筋への影響を見極めて直接基礎を採用し、バチ対応は施工に配慮して極力ボイドを平行配置させ、端部のみバチ配置で調整する方法で張出し量の一定化とPC ケーブル捌きに配慮した設計とした【図B 参照】。
また、下部工完成直後( 上部工施工前) に「現場発生土を橋台裏に先行盛土して良いか」との問い合せがあり、設計上、上部工に支障しない盛土高を概略的に計算して示したが、構造系に大きな追加応力が動くことと、バチ形かつ斜橋という構造の複雑さが予期しない問題を発生させるのではとの不安から、実際に施工された後の損傷発生を心配していた。しかし現物にはひび割れ等のストレス痕は皆無、問題なく利用されていることに安心した。
また構造特性を最大限に活かし、スレンダーな桁高( 支間約33m に対し桁高1.1mで支間桁高比1/30)で計画したその全体像は想像以上に軽快で、広幅員橋梁にありがちな暗い桁下でなく、広々とした明るい桁下空間が形成されていた【写真3 参照】。
反省点としては、支間規模に対して隅角部ハンチが不自然に小さく見え、もう少し大きく設定しても良かったのではないか、見た目に配慮した巻き込みが計画できなかったか【写真4 参照】、などが浮かび上がった。
現地に着くと、坂上さんが本橋を見上げて開口一番「でかい!」と口走った【写真5 参照】。図面で見る30m の橋は小さく感じられるが、現場で見るとスケール感に圧倒される。設計者には「スケール感覚」を備えていることが求められる。現場見学の教育における有効性を物語る一言として印象に残った。
写真3:開放感のある空間
写真4:巻き込み部の周辺調和
写真5:ちっちゃく感じる坂上さん
この橋梁は、設計発注当初、僅か40m 程度の小切土区間を挟んで連なる鋼3 径間連続鈑桁とPCT ラーメン中空床版の2 橋構成であった。
この構造に違和感を感じ、道路構造を再検討した結果、小切土区間に設ける擁壁( あるいは補強土) の資材運搬路の構築費まで考慮した精度の高い経済比較では、大規模な資材運搬路が不要となる全体連続化案(5径間化) が最も低コストであると確認し、最終的に鋼5径間連続非合成少数鈑桁(2主桁) の採用に至った【図C 参照】。この設計変更によって業務価格は大幅な減額となったが、「より良い道づくり」に繋がる有意義な提案であったと誇れる成果を残せた。
図C:側面図(起伏に富む地形のため橋脚高がばらついている)
実際の現場は、工事時に伐採された箇所でも緑が再生していた。橋脚周りや切土法面もしっかりと緑化されており、自然改変が少なくなるよう気を配った設計が活かされたように感じた。
橋梁本体については、桁端部の構造はブラケット方式の構造に変更され、構造上シンプルで安全な形式となっているのが目に止まった。その効果か、ジョイント衝撃音も間近で聞いてもほとんど気にならない程度であった【写真6 参照】。また、現場溶接継手を採用している主桁のツルリとした外観も印象的であった【写真7 参照】。
写真6:端部ブラケット
写真7:添接版の無い(現場溶接)ウェブ
写真8:単列深礎基礎とした橋脚(景観に配慮したスリット採用)
本橋の下部構造は高低差の著しい橋脚が混在しているが、設計ではここで地震時水平反力分散構造の採用に挑んでいた。構造高の最も低いP3 橋脚【写真7 奥参照】を曲げ破壊型にデザインすることは不可能であったため、せん断破壊型を許容しつつ、脆性的破壊の懸念に対し必要な措置を講じて対応した。また、地形・交差道路の制約により、P1 橋脚では単列深礎杭基礎を採用している【写真8 参照】。本構造の橋脚への適用例は少なく珍しい事例といえるが、ここでも損傷や変形、地山の変状は見受けられず、健全な状態が保たれていた。
梅農園が広がる起伏に富んだ山々。平静な尻掛池ではイシガメが甲羅を温めている。この平和で日本的な風景の中、尻掛高架橋は穏やかにあり続け、この風景にそっと溶け込んで欲しい。
高架橋の桁輸送や土工工事などで利用する現場進入路に、町道の利用が計画されていたが、現道を調査するとセミトレーラの進入が困難であったことから、町道の線形修正と既設橋拡幅設計を行った【図E 参照】。
町道は養鶏場業者・梅農園が常時利用しているため、通行止めが生じる全面架け替えは不可能であった。よって、①工事時の既設橋安全性、②合理的な縦継目位置、③枝桁を含む新設桁の配置方法などを検討し、既設橋を合成桁とみなした上で工事時活荷重(T-25) を短期荷重と捉え、使用可能( 拡幅対応が可能) と整理した。
桁配置は主桁の死荷重バランス、床版の作用曲げモーメント量、拡幅工事時の既設橋の供用性( 幅員3m 確保) を総合的に検討して決定した【図D 参照】。
拡幅後の橋は、床版面、桁、縦継目などに目立った損傷は見受けられず、工事車両を無事に通行させたと推測される。路面や継目に段差や異常変位もみられず、設計当時の計画方針・設計内容が妥当であったことを示すものとして前向きに受け止めた。
実は設計当時、そもそも既設橋を拡幅する必要があるのか、隣に仮橋を設ければ良いのではないかとの意見もあった。しかし安易な仮設対応に走らず、工事後には機能を高めた橋として地元に返せるよう発注者と共に努力した。結果、狭く屈曲部拡幅が小さくて使いにくかった橋が、広く走り易く、そして丈夫な橋に生まれ変わった【写真9・10 参照】。
高速道路事業では、計画次第で有益な副産物・付加価値を生み出す余地がある。本橋の拡幅は、その良い実践例であったと思う。
写真9:現町道橋を河川上流から臨む
写真10:通行しやすい隅切
経歴:大阪支店、広島支店、本社、名古屋支店に勤務。広島異動を機として構造物設計を主務とし、現在に至る。
趣味:犬、熱帯魚の飼育、スキー(最近はほぼ自由落下)、酒少々
抱負:まだまだやりますムードメーカー!すぐに出します精算書!
座右の銘:「急がば回れ」
経歴:本社、広島支店にて橋梁はじめ構造物設計に従事。また安佐南(工)、宮崎(工)、山口(工)の施工管理業務、海外業務(比国セブ島)などに従事。
趣味:酒、煙草、+α(秘密)
抱負:より良い会社、そして社会にしていこうネ!
座右の銘:「右見て左見て、もう一度右を見る」
経歴:構造橋梁部、道路環境部などで設計アシスタントに従事。
趣味:テニス、バレーボール、水泳、酒少々
抱負:私のCADテクで皆さんを手厚くサポート致しますョ!
座右の銘:「石橋を叩いて渡る」