株式会社 片平エンジニアリング

台風による被害状況調査
自然災害の威力と柳のように立ち向かう技術者達

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下流域の被害状況、河川の攻撃斜面は洗掘され道路が寸断され、手前の橋は落橋している(要因不明)。
(土木学会 平成15年台風10号北海道豪雨災害調査団のページより)

1.公団幹線林道平取・えりも線(平取・新冠区間)

公団幹線林道平取・えりも線は、海岸線をたどる国道235号に対し、内陸を縦貫するかたちで平取町振内とえりも町目黒を結ぶルートにより計画された道路である。

このうち、平取・新冠区間は、厚別川支流のウエンテシカン川に沿う延長6.9kmの区間で、日勝峠より新冠-静内方面へと向かう主要地方道平取静内線の代替ルートとして利用されている。

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2.平成15年台風10号の威力

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図A:総雨量線図(札幌管区気象台)

台風10号による暖かく湿った空気と、8月8日朝に発生した低気圧の影響により、前線活動が活発化し、北海道日高、十勝、釧路地方では、150mm以上の総雨量となり、特に日高地方では9日夕刻から非常に強い雨となり、降り始めてからの積算雨量は400mm近くを記録した。この雨量は年間の平均雨量の約1/3に相当するものである【図A参照】。台風10号豪雨災害による北海道内の被災状況を表aに示す(平成15年9月25日現在、北海道総務部)。

災害発生当時は、林業の推進に伴う自然林の伐採と林道開発が、下流側地域の被害を拡大させたとの意見もあった。

このため、林道と平行するウエンテシカン川流域全域を調査し、山地崩壊の発生形態と発生要因、流木の発生形態と発生要因、地形・地質上からみた林道災害の原因究明を行った。また、復旧工法の検討を行うために必要な資料を得ることを目的とし業務を実施した。

表a 被災状況概要 水産関係は、ホタテ被害等漁業被害を除く。
区分人数、棟数、世帯数区分被害額(百万円)
人的被害 死者 10名 農業関係 17,731
行方不明 1名 土木工事関係 52,384
重症 1名 水産関係 42
軽傷 2名 林業関係 10,349
家屋被害 全壊 18棟 18世帯 衛生関係 658
半壊 13棟 13世帯 商工関係 539
一部破損 20棟 20世帯 効率文教関係 180
床上浸水 129棟 133世帯 社会教育施設 1
床下浸水 438棟 482世帯 その他 18

3.熊に出会わぬように被害状況調査を行う

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遙か彼方の山頂崩壊地を望み、呆然と立ちすくむ調査員。ただ歩くのみ...。

ウエンテシカン川流域のうち、林道左岸側は被災後の空中写真判読を行い、林道が平行する右岸側の山地部(林道に直接被害をもたらした崩壊地)については、山裾から山頂まで全て現地踏査を行い、崩壊要因、崩壊規模の把握に努めた。現地踏査期間は2人2パーティで1週間、朝から晩まで歩いたのであった。北海道といえばヒグマ!『当地のヒグマは悪さしない』の伝説は無視し、鈴の携行と社会人のマナーとしてノック代わりにクラックションを鳴らして、山へお邪魔したのであった。

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2004年11月26日(苫小牧民報)

【新冠】クマに襲われたハンター2人重軽傷

26日朝、新冠町の国有林内でハンター2人がクマに襲われ、重軽傷を負ったと、北電から静内署に届け出があった。

静内署によると、襲われたのは新冠町太陽、農業幸山豊さん(67)と同町万世、農業川越幸雄さん(65)。同日午前8時半ごろ、送電線点検作業員の警護中、クマ2頭に襲われた。幸山さんは静内町内の病院に運ばれたが、顔などに重傷、川越さんもけがをしており、新冠国保病院で手当てを受けた。

クマ1頭は現場で射殺したが、1頭は山奥へ逃げたという。

北電静内電力所によると、現場は新冠川水系奥新冠ダムと新冠ダムのほぼ中間にある奥新冠発電所付近。25日から作業員7人と北電職員1人が、近くの送電線点検作業を進めており、幸山さんと川越さんはハンターとして警護の依頼を受け、警戒していた。

ここで、調査最終日、帰路のカーラジオから尾根続きの山での出来事が...『入山は、ヒグマのためにも、鈴携行!』

4.調査結果

林道は全延長6.9kmの内、31.3%に相当する2.157km間にて崩壊もしくは被災した。その詳細は幹線林道の崩壊が4.7%に相当する0.321km、上方の支沢部での崩壊により被災した区間が26.6%に相当する1.836kmである。崩壊は山腹から山頂にかけて、不安定な要因が存在する斜面で発生しており、山裾に建設されている林道は、砂防堰堤のような役割を果たしていた。

5.流木の発生形態

上流から中流部の沢沿いの崖地や急傾斜地などに生育してした針葉樹や広葉樹などの樹木のほか堆積していた倒木等が、山腹崩壊や渓流浸食により発生した土砂とともに流出したことに加え、谷幅一杯に洪水流が流下し、上流から下流に至る多くの河畔林が流出したため、多量の流木が発生した。

6.工事費

林道建設費 約26億円
台風10号の対策費 約3億円
約29億円

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林道沿いの山腹崩壊状況(茶色い部分が崩壊地)
(平成15年台風10号に伴う集中豪雨による流木発生等実態調査に係る報告書、北海道立林業試験場より)

7.現地取材結果、いざ北の大地へ~やはり熊には出会わず~

当林道は、国道235号の迂回路としても利用頻度が高いため、迅速な復旧が必要となるが、地方自治財政、社会資本整備の優先順位等から、災害から7年経過した現在、復旧がどの程度進んでいるか、また、復旧方法(対策工法)はどのような対策を行っているかを確認するため、現地取材を敢行した!

我々地質チームは、確認した情報をもとに、今後の災害地での応急(恒久)復旧方法の提案に役立てることを胸に誓い、眠い目をこすりつつ、化粧ののりも気にせずに、早朝の千歳便に飛び乗ったのであった!

8.当時の調査では...

幹線林道沿いでの被災箇所は56箇所が確認され、その内、53箇所(94.7%)については、幅員内に溜まった崩積土を取除くことや、被災前の形状に戻すことで、緊急対策としては必要十分であり、変状規模の大きい3箇所(5.3%)においては、地質構成と変状機構を把握した上での恒久的な対策工法の検討が望ましいと判断した。

また、C-BOXやPIPE等を用いた横断構造物の堆砂等による被災箇所は、42箇所(75.0%)確認された。復旧については、2003年台風10号による大雨の再現期間は210~320年であると報告されており、再現期間を対象とした規模に変更することは現実性に欠けるため、現形状で問題はないと判断した。なお、氾濫土砂等が幹線林道を乗りこえた14箇所(25.0%)では、横断構造物の上流側に流木を捕捉する構造物(例えば、H型鋼を用いたスリット式擁壁)による対策が望ましいと判断していた。

9.現地を再び訪れて

被災後7年が経過した2010年7月に現地を訪れ復旧状況を確認した。2003年の変状では、土石流の直撃による被害はほとんど認められず、被害の多くは次の3パターンに区分できた。

  1. 本流側盛土が、洪水流による洗掘により路体の流失
  2. 谷の源頭部に発生した表層崩壊からの崩積土と倒木が流水とともに沢を埋積し、その一部が本線を越流
  3. 切土のり面の表層崩壊

復旧工法は、崩積土の取除きやフトンカゴによるのり尻補強等、原型復旧を主体として簡易な復旧方法が実施されていた。恒久的な対策工法が必要と判断した箇所においても、崩壊したのり尻部の重力式擁壁を土羽構造へ見直すなど【写真1参照】、河川改修、砂防工事および林道補修を一度に実施した理想的な復旧方法(安い、早い、きれい)がなされていた。また、道路横断構造物は、当時の調査提案どおり、現況形状での原型復旧がなされていた。

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写真1:のり尻部重力擁壁が川側に転倒している。/6年後→壊れた擁壁は取り除き、のり尻部は盛土により復旧されていた。すぐ壊れるが、すぐ直せる。

このほか、先にも述べたが、ウエンテシカン川本流および土砂流出の著しい支流の一部では、砂防ダムが新設されており、河床の安定が図られている【写真2参照】。道路はすべて復旧されており、快適な高原のドライブを楽しむことができる。地方行政恐るべし!

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写真2:新設された砂防ダム!崩積土は、1t土のうとして利用されていた!

ただし、沢部と交差する箇所では、沢水の出水に伴い土砂が路面に堆積している箇所が局部的にみられる【写真3参照】。が、快適に走れる道路に変わりはない!

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写真3:被災したのり面の復旧状況 のり面を整形・種子吹付のり尻にふとんかご+排水工(ポリエチレン管)/6年後→比較的最近の降雨時に溜まったとみられる土砂

降雨災害を完全に防止することは現実的には無理(かなりの予算を掛ければほぼ可能なレベルには到達するが)である。災害に強い道路を志向することは技術者として当然ではあるが、力技で被災防止を図るよりも、自然現象とうまく付き合い、まるで風になびく柳のようにしなやかな思考をもつ技術者になりたい。そう感じた現地取材であった。

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写真4:崩壊した土砂は、ブロック積を乗り越え本線に流出水抜きボーリング実施箇所。/6年後→のり面の整形等の対策は行われていない植生は回復している。

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写真5:川側盛土が洗掘され、盛土のり肩部が崩壊している本線横断管(ヒューム管)も流されている。 /6年後→復旧状況。

リポーター

山田 芳久

横浜市出身、西葛西部屋。戸籍では会社と同級生。明日に向かって撃てのキッドことロバートレッドフォードに憧れて髭面です!

渡辺 真司

名古屋に家族を残し単身生活。乱れた食生活を反映し、メタボ体型へと変身中!

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